【現役税理士法人職員が教える】個人事業主のためのテンプレートを使った請求書作成方法
個人事業主が請求書を作成するための必要な項目とテンプレート
請求書は、ビジネスにおいて商品やサービスの代金の支払いを求める書類です。個人事業主にとって請求書は収入を得るためだけでなく、ビジネスをする上での信頼につながる大変重要なツールです。
請求書には、自分の情報(個人事業主の名前や連絡先)、相手の情報(顧客の名前など)、取引内容(提供したサービスや販売した商品の詳細)、支払い条件(支払い期限や支払い方法)、合計金額などを記載します。
請求書を正しく作成し、効率的に管理することは、仕事を円滑に進めていくうえでも大変重要です。このページでは、具体的にどのように請求書を作成・管理するかを説明していきます。使いやすい請求書のテンプレートも用意していますので、個人事業主の方の参考になるかと思います。
請求書とは?個人事業主が知るべき基本事項
請求書を作る上で、記載した方が望ましい基本的な事項がいくつかあります。
それらを解説する前に、そもそも請求書がどんな目的で作られるかをもう一度整理してみましょう。
◆請求書は、「誰と誰の間で」、「どんな取引・サービスが行われて」、「その対価としていくらの金額を」、「いつまでに」、「どうやって支払うのか」を明示するために作成します。
そのため、自分(個人事業主)と相手(顧客)の情報や、取引内容、請求金額や振込先などの情報を記載していく必要があります。
この基本的な考え方を理解すれば、請求書の必要事項を満たしながらスムーズに作成をすることにつながります。
個人事業主が請求書に記載するべき項目とその書き方
以下に、請求書に含めるべき主要な項目とその書き方を紹介します。
1. 自分(個人事業主)の情報
- 名前と連絡先: 事業主の名前、住所、電話番号、メールアドレスなどを明記します。
個人事業主で特に屋号などを決めていない場合は、自分の名前をフルネームで書けば問題ありません。
ちなみに、屋号がある場合は個人名と屋号の両方を必ずしも記載する必要はありません。屋号のみの記載でも問題なく請求書として有効です。
- インボイス番号: インボイス番号がある場合は、Tから始まる13桁のインボイス番号を記載します。インボイスについては別記事にて詳細に解説しています。
2. 相手(顧客)の情報
- 顧客名と連絡先: 請求先顧客の名前を記載します。必須ではありませんが、部署名や担当者名が分かるのなら記載しておくと丁寧でしょう。
3. 請求書の詳細
- 請求書番号: 案件が複数ある場合などに、請求書番号や案件番号を振ってあると、顧客側で請求書の識別が楽になります。また経理処理をする場合に二重計上などを防止することにもつながります。
- 請求書の日付: 請求書の作成日を記載します。締め日がある場合は、締め日も記載すると良いでしょう。
4. 取引内容の詳細
- 提供したサービスや商品の詳細: 提供した内容や商品名、数量、単価を記載します。
この時、消費税について相手側と取り決めがあればその取り決めに従って記載します。消費税については別記事で詳細に解説しています。
- 提供した日付: サービスや商品を提供した日付を記入します。この日付は請求書の発行日付とは異なり、実際に業務を行った日が該当します。
5. 金額と支払条件
- 合計金額: 請求書の合計金額を明記します。
- 税額と税率: インボイスの要件を満たすためにはそのサービスや商品にかかる消費税の税率と税額を記載する必要があります。税率が複数にわたるパターンもあるので、税率ごとの合計額と消費税額の記載が必要です。
- 源泉所得税: 源泉徴収の対象となる取引の場合は、源泉徴収税額も記載しておくと丁寧です。原則として支払い側(顧客側)に源泉徴収義務がありますので、記載がなくても問題はないですが、記載しておくと後々の自分の経理処理の際にも役に立ちます。
- 支払期限: 支払い方法や支払い期限を詳細に記載します。特に取り決めがなかったり、期限を記載するのが憚られるような関係性であったりする場合は記載をしなくても問題ありません。
- 支払口座: 振り込んで欲しい口座を記載します。銀行名、支店名、口座番号、口座名義人などを誤りないように記載します。この時、振込手数料について相手負担かこちら負担かの取り決めがある場合は記載しておきましょう。
請求書に印鑑は必要なのか
良くある疑問として、「請求書に印鑑を押す必要があるのか」、というものがあります。結論から言うと、請求書への印鑑の押印は必須ではありません。
ただし、請求書に印鑑があると、その人が発行した請求書だという信頼性が増しますので、印鑑を押すことはある程度一般的な慣習でした。しかし、昨今のハンコレスの流れを受けて、印鑑を省略するケースも増えていますので、印鑑が押していなかったからと言って無効になるということは決してありません。
ちなみに、最近では請求書を電子データでやり取りをすることも増えたため、電子データ上で印鑑を押すことができる電子印鑑のようなサービスも普及しつつあります。
そういった本格的なサービスを使用しなくても、印鑑の画像データを用意しておいてテンプレートに張り付けておくことで毎回印刷して押印をしなくても印鑑があるように表示することもできます。
個人事業主向け請求書のテンプレート活用方法
効率的に請求書を作成するためには、テンプレートを利用しましょう。
自分の情報などを一度記載しておけば、毎回入力する必要がなくなりますし、振込先口座の誤入力なども防ぐことができます。
また、数式を入力して、消費税額や合計額などの計算を自動でできるように設定しておけば、省力化につながるだけでなく、請求金額の記載誤りなどを防ぐこともでき大変便利です。
最近では手書きの請求書は受け取らないという会社もあるようです。
手書きだとどうしてもミスが起こりがちであったり、数字を書き足して改ざんができてしまう可能性もあるので、パソコンで作成することを求められるケースも増えてきているようです。
有料の会計ソフトを導入すると、請求書作成システムが使用できる場合もありますので、その機能を使用することも有効です。
確定申告のために、自分で会計ソフトを使用して帳簿をつける、という個人事業主の方は自分が使っている会計ソフトに請求書作成サービスが付帯しているか確認してみましょう。
次のパートでは無料で使える請求書テンプレートを紹介しています。ダウンロードし、自分の情報を入力して保存しておきましょう。
PC上で普段からよく目にするデスクトップなどに保存しておくと便利です。
登録不要、無料で使える請求書テンプレートの紹介
下記ページからダウンロード可能です。
スマホで請求書を作成・発行する方法
最近では、スマホを活用して請求書を作成・発行することができるツールやサービスも増えてきています。例えば専用のアプリをダウンロードすると、無料でインボイスにも対応した請求書を作成することができます。
アプリを使用する場合の注意点は、発行枚数が増えると有料になったり、無料版だと使えるシステムが制限されている点です。
また、作成した請求書は確定申告などの際に全て確認する必要がありますし、税務書類として保存をする必要があります。後々、取引先に送ったメールを全て振り返らないと請求書が確認できない…といった事態にならないように、PCのデスクトップやクラウドサービスなどを利用してわかりやすく管理しておく必要があります。
注意点とトラブル対応
このパートでは、請求書に関する注意点とありがちなトラブルを記載します。
1. 注意点
- 正確に記入しましょう
金額や相手先の名称、取引内容など、前回のコピペで作成して誤った内容で作成をしないようにしましょう。
- 税金の記載を正しくしましょう
消費税や源泉徴収など税金にまつわることは複雑で知識も必要ですが、正しく記載をしないと後々のトラブルにつながることもあり、場合によっては税務調査などの対象となることもあります。どうしてもわからなければ、管轄の税務署や税理士などの専門家に相談しましょう。
- 請求書の管理と保存: 確定申告の際には請求書を全て振り返る必要があります。青色申告を使って確定申告する場合は、簿記の原則に従って帳簿を作る必要がありますので、請求書は重要なエビデンス資料となります。わかりやすく見やすいように保管をしましょう。
2. 一般的なトラブルと対応方法
- 支払遅延: 支払いが期限よりも遅れた場合は、顧客にリマインドや催促を行う必要があります。どうしても支払いがなされない場合、法的措置を取らなければならないことがありますが、契約書や請求書は有用な証拠資料となり得ます。
- 請求書の誤り: 請求書に誤りがあった場合、速やかに訂正して再提出しましょう。
既に誤った内容で振込を受けてしまった場合は、返金対応や次回の請求での調整など誠実に対応しましょう。
請求書作成時に起こりうる一般的な間違い
請求書作成時に起こりやすい一般的な間違いに次のようなものがあります。
- 計算ミス: 金額の記載誤りや合計金額の計算ミスは大変よく目にします。数量と単価、税額の計算などを作成後に再度確認することが大切です。また、Excelのテンプレートを使用する場合、数式がおかしくなっていないか再確認をする必要があります。
- 相手情報の誤記載: 取引先名の表記相違や、別の顧客の名前を載せてしまうことは起こりやすいミスの一つです。個人情報の漏洩にもつながりビジネスの信頼関係を損ねてしまうことにつながりますので注意ましょう。
- 記載順番のミス: 値引や源泉徴収税額を記載する箇所がおかしいことで、計算の順番がおかしくなり、請求金額が実態と異なっているケースもよく見られます。
テンプレートを使用することでこういったミスは防ぐことができます。
源泉徴収、消費税など税金に関するトラブルと防止策
このパートでは、税金関係でありがちなトラブルと防止策をまとめました。
1. 源泉徴収(所得税)
- 源泉徴収が必要な取引なのに源泉徴収がされていない。反対に必要のない取引なのに源泉徴収がされている
- 源泉徴収額の計算が誤っている
→対応策: 前述の通り、源泉徴収については「支払者」の義務ですので、まずは取引先(顧客側)と源泉徴収の有無についてしっかりと話し合いをして、どういった根拠に基づ いて源泉徴収が行われるかを明確にすることが良いでしょう。
源泉徴収は、一定の税率で機械的に行われるものなので、自分が確定申告をすると、正しい税額が計算され、「源泉徴収で足りなかった税額は確定申告時に残額を納める」ことになり、「源泉徴収されすぎていた税額は還付される」仕組みとなっています。
源泉徴収されているからといって放置せずに、必ず確定申告を行いましょう。
2. 消費税
- 消費税の記載が必要なのに記載がなされていない。
- 消費税の納税が必要なのに行われていない。
- インボイスの要件を満たした請求書になっていない。
→対応策: 消費税については、もともと複雑な税金の仕組みでしたが、インボイス制度の導入によってより複雑になりました。自分がインボイス事業者か(=消費税を納める義務がある立場か)によっても対応が大きく変わります。こちらは、詳細を別ページにて解説していますのでそちらを参照ください。
これらのトラブルを防止するためにも、日々作成する請求書を正しく準備しておく必要があります。一度テンプレートを基に正しいベースを固めてしまえば、リスクを大幅に減らすことができます。
請求書の送付と保管
請求書の送付方法については、郵送での送付と電子データでの送付の大きく2つがあります。
請求書を郵送する場合は、郵便局や最寄りのポストなどから発送をします。配達の記録を残す場合は、レターパックや簡易書留など追跡可能な配送サービスを利用しましょう。
PDFファイルなどの電子データで送る場合は、メールへの添付やクラウドへのアップロードなどの方法があります。
請求書を保管する場合は、電子帳簿保存法にも気を配らなければなりません。詳細は別のページで解説しますが、紙で送った書類の控えは原則紙のままで、電子データで送った請求書の控えは原則電子データで保存しましょう。
請求書の発行側も7年間の書類保存義務があります。
万一の税務調査などに備えて、発行した請求書はわかりやすい場所で一括管理し、必要な請求書をいつでも提示できるように整理して保存しておくことが必要です。
仕事の案件ごとの請求書の管理と保存方法
同じ取引先に、複数の案件の請求書をそれぞれ発行して送るケースがあります。
この場合に、取引内容の混同による二重払い、支払い漏れなどは良く起こりがちなトラブルです。
こういったことを防ぐためのコツとして、請求書の中の取引内容をできるだけ具体的に記載し、どの案件に紐づくものかを明確にしておくと、トラブル防止につながる上に、確定申告の際に経理処理を行う際にも役立ちます。
もし余力があるのであれば、Excelやスプレッドシートなどで、案件ごとの業務完了日、請求書発行日、入金日を入力して進捗の確認できるような仕組みづくりをしておくと、入金額相違や入金遅延などにもいち早く気付くことができます。
それぞれに対応する案件番号を設定しておくと、後々振り返りをする際にも大変便利になります。その場合は請求書にも案件番号を記載できるようにテンプレートを加工しておくと便利でしょう。
発注と合わせて記入する必要のある領収書や納品書
請求書の他に、取引の内容を明示・証明する書類として、領収書や納品書などがあります。
法的に作成が必須なものではありませんが、請求書を補完するものとして有効な書類です。
特に領収書は、請求書の発行を省略するケースなどには作成をした方が望ましいでしょう。
インボイスの要件を満たすために、請求書に代えて一定の項目を記載した領収書で対応するケースもあります。
この記事を書いた人
山崎
現役の会計・税務業界人。CFP(認定ファイナンシャルプランナー)資格を保有。
メガバンク・生命保険・中小企業の経理担当・会計事務所での実務経験を有する。
資産形成が好きで、ロボアドを活用した投資を軸に、NISA、iDeCo、外貨建生命保険、変額保険、現物株、海外株、仮想通貨、マイクロ法人など様々な投資を行っている。