2024年4月5日 投稿者: 2of オフ

会社設立のプロ行政書士が教える!個人事業主が会社設立するメリット・デメリットと注意点

会社に勤めるのではなく、「自分で独立開業したい」と考え、独立開業する方が増えています。ほとんどの場合、最初は個人事業主として開業される方が多いのですが、「いつかは法人(会社にしたい)」とお考えの方も多いと思います。

今回は個人事業主と法人(会社)の違い、法人化するプロセス、そして法人化のメリット、デメリットについてお伝えしていきたいと思います。

個人事業主と法人(会社)の違いとメリット、デメリット

まず最初に、個人事業主と法人(会社)はどう違うのでしょうか。それぞれの違いを確認してみましょう。

事業の開始について

個人事業主は、税務署への開業届の提出を行うことにより、事業の開始が可能であり、費用をあまりかけずに事業を始めることができます。なお開業届を出さなくても特に罰則はありませんが、補助金や助成金を受けることが出来ない場合があります。開業届は、事業を行っていることを証明する書類となるため、罰則がなくても出しておくことをお勧めします。

一方、法人(会社)の場合には、定款作成や法務局で登記などの手続が必要になるため、個人事業主に比べて費用がかかるデメリットがあります。

税金

所得に対して個人事業主が払う税金は所得税、法人(会社)が払う税金は法人税です。所得税は所得が多くなるにつれて税率が高くなるので、一般的に所得が低いうちは個人事業主の方が税金面でのメリットがあります。

一方、法人税は税率が一律のため、所得が高くなると、法人税の方が安くなります。

経費

個人事業主の場合、自分への給与や生命保険料は経費にできません。しかし法人の場合、経費として認められる範囲が大きくなり、役員報酬や退職金も一定の条件のもと経費とすることができるメリットがあります。

社会的信用

個人事業主より、法人の方が社会的信用があるとされる場合が多く、新規の契約や融資の場合に有利になることがあります。中には取引先から「法人同士での取引をしたい」と求められる場合もあります。

ビジネスチャンスを広げたい場合や、大手企業との取引を考えている場合は、法人にする方がメリットがあると言えます。

会計や経理

個人事業主は、毎年決まった時期の確定申告が必要になります。しかし法人(会社)は、決算期を自由に設定できるため、決算期と繁忙期が重なるのを避けることができます。

決算期が自由に設定できるの点は法人のメリットですが、個人事業主の確定申告より、法人(会社)のほうが、複雑になることも事実です。多くの場合、税理士に依頼しなければならず、税理士へ支払う費用も無視できません。

社会保険

個人事業主の場合、条件によっては社会保険に加入しなくてもかまいません。開業当初の売上が少ない場合には、国民健康保険料を抑えることが出来れば、メリットと言えるかもしれません。

法人(会社)の場合、社会保険には強制加入になります。社長1名のみであっても、売上が少なく赤字であった場合でも例外はありません。こちらもコストがかかり、考え方によってはデメリットと言えます。

個人事業主から法人化へ

個人事業主と法人(会社)の違いをご理解いただけたと思いますが、個人事業主として開業するほうが、法人(会社)を設立するより開業当初のコストを抑えられます。そのため独立起業をする場合、まずは個人事業主としてスタートする方は少なくありません。

やがて事業が軌道に乗ってくると、個人事業主ではなく法人(会社)を設立する方も多くおられます。事業が軌道に乗り収益が増えてくると、法人(会社)にした方が節税できる場合もあるので、その場合には法人(会社)化にはメリットがあります。

コストと手間が生じるので、経営者としてどちらが良いかよく検討する必要があるでしょう。

個人事業主から法人(会社)成りを考えるきっかけ

個人事業主から法人(会社)にするきっかけは様々です。多くの場合、個人事業主として始めた事業が軌道に乗り、売上と規模がだんだん大きくなってからいよいよ法人化する、という点は共通しているようです。

法人(会社)にするタイミングは色々であるものの、下記のタイミングで法人化に踏み切る方が多く見られます。

1.事業が軌道に乗って売上が増え、所得金額が多くなった場合

所得金額が増えれば増えただけ、所得税の税率が高くなります。現在の日本の制度では、経済的に豊かな人から税金を多く集め、所得の低い人の税負担を軽くしているからです。

一方、法人(会社)が支払う法人税は、所得税と仕組みが異なります。資本金が1億円以下の法人の場合には所得金額が800万円以下の場合には税率は15%、800万円を超えた場合には23.20%と決められているため、法人の所得が増えても税率は変わりません。

所得金額によって、税金面でどちらが良いか、考えて決める方も多いのです。法人税の税率については、国税庁のHPに詳しい資料がありますので、下記のリンクもご覧ください。

No.5759 法人税の税率|国税庁 (nta.go.jp)

2.家族への給与を経費にできない場合

事業者が家族に支払う給与は、専従者とする場合を除いて経費扱いが出来ません。専従者とする場合には、税務署への届出が必要です。さらに退職金も経費にすることが出来ません。一方、法人の場合、税務署への届出なしで家族へ給与を支払うことが可能です。また、退職金を経費とすることが出来ます。

家族へ給与として支払う金額が増えた場合や、退職金を支払う必要が生じそうな場合など、法人(会社)成りを考えるきっかけになると思います。

3. 2年前の課税売上高が1,000万円を超え、その状態が続きそうな場合

多くの方がご存じのとおり、課税売上高が1,000万円を超える場合には、消費税の支払が必要となります。

消費税課税事業者となるタイミングで法人化する方も多いのですが、その理由は消費税課税事業者となったタイミングで法人化するなら、最低2年の免税期間が作れるからです。例えば2022年に個人事業主としての課税売上が1,000万円を超えた場合、個人事業主のままであれば2024年から消費税の納税義務が発生します。

しかし2023年に法人にした場合、基準となる売上は2023年のものにリセットされます。そのため、消費税の納税を2025年まで引き伸ばすことができるので、税金対策としても効果があります。

4.取引先から法人間での取引を求められた場合

比較的大きな企業の場合、取引先を法人に限定している場合があります。法人にしなければ、大きな取引やビジネスチャンスを失い、売上が大きく落ち込んでしまうかもしれません。また、これからビジネスをどんどん広げていきたいと考えている場合、将来の顧客にしたいと考えている企業が、法人間での取引を希望しているような場合、売上や取引先が大きく増やせると見込まれる場合には、法人にしておく方が良いでしょう。

5.従業員を雇いたい場合

職業安定所やインターネットでの求人広告を利用し、不特定多数の相手に対して求人を出す場合、求職する側は雇用条件を見ています。

その中に「社会保険に加入しているか」という点は大きな判断材料となります。社会保険に加入している場合、健康保険料や厚生年金保険は会社が半額負担するため、労働者の負担は少なくて済みます。

会社側からすると、決して小さくはない費用ですが、優秀で長く働いてくれる従業員を広く募集する場合には、法人化して社会保険制度を完備させておくことをお勧めします。

 

個人事業主から法人(会社)への道のりと基礎知識

さて、法人化のメリットとデメリットを考えたうえで法人化を決めたら、ここから先は必要なステップをご紹介します。

1.会社の概要を決める 

会社の社名、所在地、資本金、設立日に加え、会社の会計年度を決める必要があります。会計年度は、営む事業のサイクルに合わせて繁忙期を避けて設定することが可能です。さらに事業目的や株主、役員も決めておく必要があります。

特に会社の社名を決める時には注意が必要です。

社名に使用できる文字は、漢字、ひらがな、カタカナ、英文字(大文字・小文字)、アラビア数字です。ピリオドは直前に英文字がある場合、使える場合があります。

「&」や「,」などは、会社名の先頭や末尾に使うことは出来ませんので注意が必要です。また「★」や「♪」なども使うことが出来ません。

そして「株式会社」や「合同会社」など、会社の種類も入れましょう。「株式会社〇〇」のように前につける方法と、「◇◇合同会社」のように、後につける方法があります。前にするか後にするか、読みやすさや見やすさなどを考えて決めましょう。

なお、使ってはいけない言葉があることを覚えておきましょう。「銀行」や「保険」などは、その事業を行っていない法人は会社名とすることが出来ません。

また、同じ住所に同じ会社名の会社を作ることも禁止されています。シェアオフィスなどを利用する場合には、先に確認しておくと良いでしょう。

2.法人用の実印を作成 

個人の実印は印鑑登録を行いますが、法人の場合にも法務局への印鑑届が必要です。サイズは辺の長さが1センチメートル以上であり、なおかつ辺の長さが3センチメートルの正方形に収まる必要があります。

一般的には丸いものが用いられ、会社名と代表取締役等の役職名が入ります。実印に加えて社判(請求書などに使う、いわば日常使いの印鑑)や銀行印(銀行取引に使う印鑑)も作成しておくと良いでしょう。

3.会社の定款を作成する 

定款(ていかん)は、会社ルールをまとめた文書ですが、必ず記載するのは下記の点です。

・会社の商号

・事業目的

・本店所在地

・設立に際して出資される財産の価額またはその最低額

・発起人の氏名及び住所

定款の作成には時間がかかります。特に株式会社では公証役場での認証手続が必要になりますので、時間にゆとりをもって作成しましょう。合同会社の場合、公証役場での認証手続は不要です。

4.出資金の払込

公証役場での認証手続が完了すると、資本金を払い込みます。この段階では会社の銀行口座はまだ作れないため、発起人の個人口座へ振込むことになります。

資本金は制度上、資本金1円から会社設立は可能ですが、資本金が極端に少ない場合には、金融機関から信用してもらえず、融資を受けることが出来ない場合があります。

また、行政上の許認可を取りたい場合にも、資本金が要件となることがありますので、資本金の金額には注意が必要です。

5.法務局へ申請

いよいよ法務局へ登記の申請を行います。登記とは、法人について商号や名称、所在地などの大切な情報を公にする制度です。司法書士に依頼する方も多い手続ですが、提出に必要なものは下記のとおりです。

・設立登記申請書

・登録免許税分の収入印紙

・定款(紙の定款の場合、4万円の収入印紙代が必要)

・発起人の同意書

・設立時代表取締役の就任承諾書

・監査役の就任承諾書(監査役がいない場合には不要)

・発起人印鑑証明書(発起人が複数いる場合には、全員分を用意)

・資本金の払込を証明する書面(通帳のコピーなど)

・印鑑届出書(会社の実印登録用)

・司法書士に依頼する場合には委任状

なお、法務局のホームページには、書式のテンプレートも用意されていますので、ぜひこちらもご覧ください。商業・法人登記の申請書様式:法務局 (moj.go.jp)

また、各法務局では登記の相談窓口を設けています。多くの場合、完全予約制になりますので、あらかじめお電話等でご確認されることをお勧めします。

合同会社と株式会社、どちらにするか

法人成りをする時、もう一つ忘れてはいけない点があります。それは株式会社と合同会社のどちらを選ぶかです。最後に株式会社と合同会社の違いと、それぞれのメリット、デメリットをお話します。

合同会社とは

合同会社は、出資者が会社の経営者と同一であり、出資者が社員となります。社員は原則として経営も行い、業務執行権も与えられますので、意思決定のスピードが速い点が特徴です。

別の点として、株式会社は株主総会で承認を得た後に、前年度の決算内容を官報や日刊新聞紙、自社のホームページなどで公にする決算公告が義務付けられています。しかし合同会社には株主総会や決算公告の必要がありませんので、この点はメリットと言えます。また株式会社の場合は役員の任期があり、更新する場合には法務局での登記が必要になります。この登記には、法務局へ支払う登録免許税が必要になります。しかし合同会社の役員には任期がないため、更新の必要も登録免許税の支払も必要ありません。

さらに株式会社に比べて設立時の費用が少なく済みます。その一方で合同会社は上場することができないこと、社会的な信用度が株式会社に比べて低い点がデメリットです。(ただ、最近は合同会社の認知度が広がっています。)

株式会社とは

株式会社は会社の所有者は株主であり、経営権は取締役にあります。所有者と経営者が分かれている形態なので、この点が合同会社と異なります。

株式会社のメリットは、合同会社に比べて社会的信用度が高い点です。

また、合同会社と異なり株式を使った資金調達(エクイティファイナンス)のバリエーションが多い点も見逃すことが出来ません。

その一方で、合同会社に比べて設立時の費用がかかることや、決算公告が必要になる点は、場合によってはデメリットと言えます。

最後に

今回は個人事業主から法人(会社)成りする方法と、法人化した場合のメリットとデメリットについてお話ししました。

個人事業主に比べて、法人にすると費用が多くかかりますので、法人(会社)成りをする際には、十分な資金を確保する必要があります。

売上金額や取引先との関係性、今後従業員を雇用するか、様々な点を考えて決めていただくことをお勧めします。

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