赤字の会社では税金がかからない?赤字の場合でも払うべき税金・払わなくてもいい税金を解説
前回の記事では、法人に課される税金について概観しました。代表的な法人税だけでなく、法人には実に様々な税金が課されることが理解いただけたと思います。
とはいえ、事業を軌道に乗せるまでには時間がかかるもの。最初のうちは設備投資などの費用もかさみ、赤字になることもあるでしょう。
そこで、今回は「赤字の場合には支払わなくても良い税金とそうでない税金」という切り口で解説をしていきます。
「赤字だから税金はかからない」と楽観的に考えるのではなく、本記事を読んで、しっかり納税資金を確保しておくようにしましょう。
基本的な考え方
法人税は法人の「所得」に課される税金でした。赤字決算の場合は課税対象となる所得が存在しないため、法人税やそれに付随する税金も免除されます。反対に、課税対象が所得ではない税金は、赤字でも免除されません。
法人が赤字の場合に免除される税金
前述のとおり、法人が赤字の場合に免除されるのは、法人の所得または法人税を課税対象とする税金です。具体的に解説していきます。
法人税
法人税は、法人の所得に対して課される税金です。法人税の納付額は以下の式で計算しました。
法人税額=課税所得×税率-税額控除
税率は資本金の額や所得額によって異なります。資本金1億円以下の普通法人の場合、原則として所得年800万円以下の部分が15%、年800万円超の部分は23.2%が適用される仕組みです。
法人の所得が赤字の場合、法人税の課税対象が存在しません。したがって法人税を支払う必要はありません。
なお法人税の申告・納付期限は、各事業年度の終了日の翌日から2ヶ月以内です。「申告」期限は、その会社の定款で「定時株主総会の開催を事業年度終了後3ヶ月以内に行う」と定めている場合、所定の手続きを行うことで1ヶ月延長できます。
一方で「納付」期限は延長が認められていないため、申告期限を延長する場合でも期日までに納付が必要です。納付期限までには一旦見込額を納付し、申告によって納付税額が確定してから差額の納付や還付を受ける必要があります。
地方法人税
地方法人税とは地方交付税の財源を確保するために設けられている税金です。地域間の税源の偏りを是正する目的で用いられます。
地方法人税の納付税額は以下の方法で計算します。
地方法人税額=基準法人税額(法人税の納付額)×税率
令和6年時点における地方法人税の税率は10.3%です。
前項で紹介したように、赤字の場合は法人税が免税になります。そのため、地方法人税の課税対象である基準法人税額も存在しません。したがって、法人が赤字の場合は地方法人税も免除されます。
地方法人税の申告および納付期限は、法人税と同じく各事業年度の終了日の翌日から2ヶ月以内です。法人税とあわせて申告・納付を行います。
法人事業税の所得割
法人事業税とは、法人の事業に対して課される地方税です。法人は事業活動を行うにあたって様々な行政サービスを利用しているため、行政サービスに必要な経費の一部を負担するべきという考えに基づきます。
法人事業税は以下4つの要素から構成されています。
- 所得割
所得が発生した全ての法人に納付義務がある要素です。所得を課税標準とします。
- 収入割
電気供給会社や保険会社など、所得を課税対象とするのが不適当とされる法人に適用される要素です。所得額ではなく収入を課税標準として計算します。 - 資本割
資本金等の額を課税標準とします。資本金1億円超の普通法人に課される要素です。 - 付加価値割
従業員への給与や利子等と1年間の損益の合計額(付加価値)を課税標準とする要素です。前述した資本割と同様、資本金1億円超の普通法人にのみ課されます。
赤字の場合、法人事業税の所得割は免除されます。その他の要素については赤字でも免除されないためご注意ください。なお資本割および付加価値割は資本金1億円超の普通法人にのみ課されるため、中小企業の場合は赤字であれば法人事業税が免除と考えて良いでしょう。
法人事業税の申告・納付期限は各事業年度の終了日の翌日から2ヶ月以内となります。
法人住民税の法人税割
法人住民税とは、法人の事業所がある自治体に納付する地方税です。都道府県および市町村それぞれに納付する必要があります。
※事務所が東京23区に所在する場合、都税事務所への申告および納付のみとなります。
法人住民税を構成する要素は以下の2つです。
- 法人税割
法人税額に一定税率を乗じて計算します。 - 均等割
資本金等の額と従業員数ごとに納付額が定められています。
法人が赤字の場合は法人税額が0円になるため、法人税額をもとに計算する法人住民税の法人税割も免除される仕組みです。
なお、法人住民税の申告および納付期日は、各事業年度の終了日の翌日から2ヶ月以内です。前項で紹介した法人事業税とあわせて申告・納付を行います。
法人で赤字でも納付が必要な税金
法人が赤字であっても、課税対象が所得額や法人税額でない税金は原則として免除されません。法人で赤字でも納付が必要な税金の具体例を紹介します。
消費税
消費税は日本国内の各種取引に課される税金です。売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を引いた額が納付税額となります。
消費税額の計算に所得の有無や金額は一切関係ありません。そのため赤字でも消費税の納付は必要です。
消費税の申告および納付期限は法人税等と同じく、各事業年度の終了日の翌日から2ヶ月以内です。
法人事業税の資本割・付加価値割
法人事業税の資本割および付加価値割は、課税対象が所得額ではありません。そのため資本割・付加価値割の部分は赤字でも納付が必要です。
ただし前章で紹介したように、法人事業税の資本割・付加価値割の納付義務があるのは資本金が1億円を超える法人のみです。資本金1億円以下の法人には課されません。資本金1億円以下の場合、赤字であれば法人事業税は免除されると考えて良いでしょう。
法人住民税の均等割
法人住民税の均等割は、資本金の額および従業員数をもとに納付額が決まります。所得の有無や金額を問わず、すべての法人に対して納付義務が課されます。
なお、法人住民税の均等割の額は以下の通りです。
資本金等の額 | 都道府県民税均等割※従業員数問わず定額 | 市町村民税均等割従業員数50人以下の場合 | 市町村民税均等割従業員数50人超の場合 |
1,000万円以下 | 2万円 | 5万円 | 12万円 |
1,000万円超1億円以下 | 5万円 | 13万円 | 15万円 |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 16万円 | 40万円 |
10億円超50億円以下 | 54万円 | 41万円 | 175万円 |
50億円超 | 80万円 | 41万円 | 300万円 |
資本金等の額が1,000万円以下、従業員数50人以下の場合、法人住民税均等割は、都道府県民税均等割額の2万円+従業員数に応じた市町村民税均等割5万円=7万円となります。
つまり、法人である以上、毎年最低でも7万円の法人住民税を支払う必要があるのです。
その他各種税金
法人が赤字でも納付が必要な税金の種類として、その他にも以下の例が挙げられます。
- 固定資産税
土地や建物等の不動産や償却資産に課される税金です。1月1日時点で保有している固定資産を基に納付額が決まります。 - 自動車税
法人名義の自動車を保有している場合、自動車税の納付も必要です。 - 登録免許税
登記や登録等の場面で納付が必要な税金です。登記の種類等によって税額が異なります。 - 印紙税
契約書をはじめとした一定の文書を作成する場合に納付する税金です。対象の文書に税額分の収入印紙を貼付することで納税したとみなされます。 - 事業所税
大都市の環境整備や改善に関する事業に充てる目的で課される税金です。特定の市区町村に自治体が所在する場合に課されます。
基本的に、法人税等以外の税金はすべて赤字でも納付が必要と考えておく必要があります。
まとめ
法人が赤字の場合に納付が免除されるのは、法人の所得および法人税が課税対象となる税金のみです。具体的には、法人税・地方法人税・法人事業税の所得割・法人住民税の法人税割が挙げられます。これらの税金は赤字の場合に課税対象が存在しないため、納付税額もゼロになる仕組みです。
他方、課税対象が所得や法人税でない税金は、赤字でも基本的には免除されません。法人税等以外は、赤字でも納付が必要といえます。
法人が正しく納税を行うには、それぞれの税金の特徴や納付義務が生じる条件等について十分な理解が必要です。赤字の場合も納税義務があるものを漏れなく納付できるよう、今回紹介した内容をしっかり押さえましょう。