2024年7月31日 投稿者: 2of オフ

【予防法務のプロ行政書士による契約書の作り方講座】①事業取引において契約書を作成する意味とは

事業取引に契約書は必須です。契約書があれば相手方との紛争を予防でき、取引をスムーズに進められるからです。本記事では契約書の作り方と記載事項、署名押印と締結方法、契約書作成における法的リスクと対策などを詳しく解説します。

独立起業を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

契約書の作り方と基本事項

本章では、契約書を作成する目的や契約書の基本構成、作成する上で注意すべき点などを解説します。

契約書作成の目的と必要性

契約書作成の主な目的は次の2つです。

  • 紛争を未然に防ぐ
  • 取引をスムーズに進める

それぞれ見ていきましょう。

紛争を未然に防ぐ

契約書を作成しないまま事業取引を開始して、トラブルが発生してから「契約内容はこうなっている」と主張してもエビデンスとなる契約書が無ければ契約内容を相手方に主張できません。

紛争を予防するには、紛争の解決策を盛り込んだ契約書の作成が欠かせません。

取引をスムーズに進める

契約書に発生が想定されるトラブルとその解決策を記載してあれば、万が一取引のうえでトラブルが発生しても契約書の条項どおりに処理すればよく、取引をスムーズに進められます。

契約書の基本構成と条項

一般的に契約書の基本構成は下記のようになっています。

  1. 表題
  2. 前文
  3. 本文
  4. 後文
  5. 日付
  6. 署名欄

それぞれ解説します。

1.表題

契約書の形式は法的に決められていません。したがって表題も自由に決められます。お互いにとってわかりやすい表題を選択すると良いでしょう。

2.前文

前文には、誰と誰がどんな内容の契約を締結したかなどを記載します。

3.本文

通常、本文の記載内容は次のとおりです。

  • 契約の目的、適用範囲、用語の定義
  • 契約内容
  • 契約が履行されないときの対応方法
  • 契約解除や契約期間の満了
  • 紛争解決について

順にみていきましょう。

(1)契約の目的、適用範囲、用語の定義

何のために契約を締結するかを記載します。たとえば、「甲が乙に●●に関する業務を委託する取引において、その取引条件を定めることを目的とする」などです。

適用範囲とは、結ばれる契約がどこまでカバーされるかを明らかにするものです。

用語の定義についても明確にしておかなければなりません。なぜなら契約書で用語を定義しておかないと、当事者間や第三者との間で用語解釈の相違によりトラブルに発展するリスクがあるからです。

(2)契約内容

この箇所は契約書の中心部分であり、具体的には権利と義務の内容が記載されます。

(3)契約が履行されないときの対応方法

契約が履行されないとき、どのような対抗措置がとられるかについて記載されます。

契約不履行の対応措置としては、契約の解除や損害賠償請求があります。契約の解除の根拠法令は民法第540条、541条、542条、543条、545条であり、損害賠償請求の根拠法令は民法第415条、416条です。

(4)契約解除や契約期間の満了

どのような状態になったとき契約は終了するか、あるいは契約の有効期間が記載されます。

(5)紛争解決について

準拠法や管轄裁判所、紛争解決方法などを記載します。

国内取引であれば準拠法は国内法となるため、あえて記載する必要はありません。

契約書作成における注意点

契約書を作成する上で注意すべき点は下記の4つです。

1.リスク回避の目的意識を持って作成する
2.裁判官に理解できる言葉で書く
3.契約に関連する法律や判例を調べておく
4.契約書のひな形は記載漏れのチェック用に使う

それぞれ見ていきましょう。

1.リスク回避の意識を持って作成する

契約書を作成する際は、取引に伴うリスクを把握し、リスクを回避するという意識を持つことが必要です。

2.裁判官に理解できる言葉で書く

万が一取引上のトラブルが裁判に発展した場合、裁判所は判決を下すために契約書の中身を確認します。

契約書を当事者だけで作成した場合、当事者間でのみ理解できる業界用語が使われることがあります。

しかしながら裁判官はこのような契約書を読んでも、すぐには内容を理解できません。

裁判官が一読して内容を理解できるように作成する必要があります。

3.契約に関連する法律や判例を調べておく

商品や不動産の売買契約書を作成するときは、民法や商法・会社法に規定されている条文や判例を調査することをおすすめします。

4.契約書のひな形は記載漏れのチェック用に使う

インターネットや専門書籍に記載されている契約書のひな形により、契約書の記載漏れをチェックすることは有益です。

いったん契約書を作成した後に、ひな形に記載のある重要な契約条項が抜けていることを発見できるからです。

業務委託契約書の基本内容と条項

業務委託契約書とは、典型的には社内で行う業務を社外に依頼する際の契約書です。

基本内容は下記のとおりです。

1.委託する業務内容
2.報酬の金額と支払時期
3.業務経費
4.損害賠償
5.知的財産権
6.秘密保持条項
7.納期
8.契約不適合期間
9.管轄裁判所

それぞれ見ていきましょう。

1.委託する業務内容

業務内容や範囲をできるだけ具体的に細かく記載してください。委託業務内容を明確にしておかないと、業務内容について当事者間での認識相違により無用のトラブルに発展する恐れがあるからです。
また、業務内容について全てを記載できないケースでは「関連業務並びに付随業務の一切を含むものとする」という条項を置くことがあります。

2.報酬の金額と支払時期

報酬金額や算定方法、支払時期や支払い方法について記載します。

3.業務経費

受託者による業務遂行の過程で発生した諸経費を委託者と受託者のどちらの負担とするのかを記載します。主な業務経費として、業務上発生した交通費や通信費などがあります。

4.損害賠償

損害賠償は万が一、損害の絡むトラブルが発生してしまったときに備えるため記載します。

5.知的財産権

知的財産権とは、知的な創作活動により何かを創り出した人に付与される権利を指し、具体的には著作権や特許権、意匠権、商標権などがあります。

6.秘密保持条項

秘密保持条項とは、契約上の業務遂行の過程で知り得た相手方の秘密情報に関して守秘義務を課す条項です。

通常、業務終了後も秘密保持は一定期間、継続されます。

7.納期

納期は委託者・受託者ともに頭を悩ます問題です。契約時点でお互いが納得できる納期を決めておくことが大切です。

8.契約不適合期間

納品後の成果物に欠陥やミスなどの瑕疵が発見される場合があるため、その瑕疵に対応する期間を記載します。

9.管轄裁判所

委託者と受託者の間でのトラブル発生に備えて裁判所を記載します。

契約書の署名・押印と締結方法

契約は口頭でも成立しますが、実務上トラブル予防のため契約書を取り交わします。署名や記名・押印により、契約書は強い証拠力をもつことになります。

契約書の署名と押印のルール

署名とは、当事者が文書に自分の氏名を署名(自署)することです。当事者以外の他人が当事者の氏名を書いても、署名にはなりません。通常、契約書の署名は署名欄に行います。

契約書の電子サインと電子契約の導入

契約書の電子サインとは、電子データの契約書に対し紙の契約書における署名・押印と同じ法的効力を持たせる技術を指します

電子契約とは、インターネット上で締結する契約行為です。簡単にいうと紙の契約書でのハンコを電子サインに置き換え、紙と同等の法的効力を持たせることでトラブルを防止します。

契約書締結の流れとチェックポイント

契約書締結の流れ

契約書締結までの大まかな流れは次のとおりです。

  1. 内容の確認
  2. 下書きの作成
  3. 下書きの修正
  4. 契約書の作成と締結

それぞれ見ていきましょう。

1.内容の確認

契約書の下書き作成前に当事者間で記載項目や合意事項を確認します。

2.下書きの作成

当事者の一方が契約書の下書きを作成します。

3.下書きの修正

下書きの内容を当事者間で確認のうえ、必要があれば記載事項を追加・修正します。

4.契約書の締結

・契約書を2部作成し、片方の当事者が契約日を記入し署名押印します。

・署名押印ずみの契約書2部をもう一方の当事者に郵送もしくは手渡します。

・受け取った当事者は契約日を記入し署名押印します。

・受け取った当事者は契約書1部をもう片方の当事者に返送もしくは手渡します。

チェックポイント

  • 用語の意味が明確か
  • 一般的な形式が整っているか
  • 用語が省略されていないか

それぞれ見ていきましょう。

・用語の意味が明確か

用語の意味が確定していなければ、当事者間で解釈が異なるリスクが発生します。リスク予防のために専門用語を含め、個々の用語には何が含まれ想定されているのか、解釈の齟齬(そご)が生じる可能性があるか否かを確認する必要があります。

・一般的な形式が整っているか

契約の締結日、当事者の署名・押印等の形式は非常に重要です。万が一当事者間のトラブルが訴訟に発展し、契約書が裁判所に証拠として提出されたときには、契約書の形式が整っているか否かが重要になります。

・用語が省略されていないか

契約書に記載する用語は省略せず正式名称で記載しましょう。
紙幅の都合などにより省略が必要なときは、省略であること、略語を何と標記するかを明らかにする必要があります。「以下「●●」という」形で省略した用語を定義することも一つの方法です。

契約書作成における法的リスクと対策

契約書作成に伴う法的リスクの理解

契約書作成に伴う主な法的リスクとして、次の2つがあります。

  • 契約内容に関するリスク
  • 内容不備に関するリスク

それぞれ見ていきましょう。

・契約内容に関するリスク

契約内容が不明確なときに本リスクが発生する可能性が高くなります。例えば契約書の用語の定義が曖昧になっていると、当事者間での解釈の相違によりトラブルが発生しかねません。

・内容不備に関するリスク

契約書の内容が実際とは相違していたり、必要事項が記載されていないと、トラブル発生の可能性があります。

プロによる契約書チェックの重要性

契約書チェックには取引に関連する法律や判例などの知識が必要不可欠です。

契約の当事者が法律の素人の場合、これらの知識をウオッチするには多大な時間と労力を要します。弁護士などの専門家に契約書チェックを依頼することで当事者の時間と労力を節約できます。

契約書の製本、保管と管理

契約書の製本とは、複数枚に及ぶ契約書をまとめ、袋とじすることです。契約書の製本は法律で義務付けられていませんが、製本により改ざんを予防できます。

契約書の製本方法と注意点

契約書の製本方法でよく用いられる製本方法は次の2つです。

・紙で契約書の端を包む袋部分を作成し契約書を袋とじする方法

・市販の製本テープで契約書を袋とじする方法 

契約書の保管と管理

通常、法人取引の契約書の法定保管期間は7年です。

契約書を保管・管理する方法として次の3つがあります。

・紙による保管・管理

・マイクロフィルムによる保管・管理

・電子データによる保管・管理

取引の相手との紛争予防や取引のスムーズな進行のために契約書は作成する必要があります。作成自体は自分でもできますが、契約書の形式や内容のチェックは弁護士や行政書士などの専門家に依頼することをおすすめします。専門家への依頼により時間と労力を大幅に節約できるからです。

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