【飲食店向け】創業計画書の記入例を紹介!融資成功につながる記入戦略とは?
創業計画書とは、日本政策金融公庫で創業融資を受ける際に作成する文書のことです。飲食店開業にあたり安定した資金を調達するには、競合の多い業界で生き残るための戦略や、資金の流れを明確に記した計画書が、極めて重要な役割を果たします。
そこで今回は、飲食店創業の動機の記入から、飲食店経営者の略歴、取扱商品・サービスの記入など、計画書をどのように作成していくべきかについて、「文章の記入が必要な項目」を中心に、具体的な例を交えて解説します。さらに、飲食店を成功させるために必要なポイントもお伝えしていきます。
記事を読み終えた頃には、自信を持って計画書に取り組めるはずです。さっそく、創業計画書の概要からみていきましょう。
飲食店向け創業計画書の記入例
創業計画書を記入する際、飲食店経営者の創業への動機や取扱商品・サービスをどのように記述するかは、融資審査において非常に重要です。計画書にある合計8つの項目をどのように記入するのか、具体的な例を交えて説明します。
①:創業の動機
「飲食店を開業する理由」を記入する欄は、最も大切な項目といえます。ここでは、ただ熱意を示すだけでなく、ご自身がこの道を選んだ具体的な瞬間や出来事を伝えましょう。たとえば、「地元の食材を活かしたい」という思いや、「家族のレシピを広めたい」といった独自の動機を詳細に説明します。
さらに、顧客に提供したい独自性のある食体験や、ご自身のお店が、社会(地域コミュニティ)にどのように貢献するかを明確に描写することも大きなポイントです。飲食店として料理をふるまうことはもちろん大切ですが、ご自身だけが持つストーリーを織り交ぜることで、読み手に「応援したい」と感じてもらえることも意識しましょう。
【具体例】
「地元の特産品である新鮮な山海の幸を使った料理を提供することが私の飲食店開業の動機です。私が育った海辺の町では、漁師が獲る新鮮な魚介類がありますが、その魚介を使った料理を提供するレストランがほとんどありません。私は地元の漁師たちと直接提携し、獲ったばかりの魚介を使って、お客様に今までにない新鮮でヘルシーな食体験を提供したいと考えています。また、私の祖母が作る地元の伝統的な漬物をメニューに取り入れることで、地元の味を多くの人に広めたいという思いもあります。私の店は、単なる食事の場所に留まらず、地域の文化・歴史を体験できる場となることを目指しています。」
②:経営者の略歴等
これまでの経験や学んだスキルは、ご自身の飲食店が成功するための基盤です。ここでは、事業に関する業界での経験等を、時系列で正確に記入していきます。
【具体例】
年月 | 内容 |
---|---|
平成○年○月 | ○○県立高校卒業(調理師免許取得) |
平成○年○月 | 地元の老舗和食レストラン「○○亭」入社 厨房和食担当(○年) |
平成○年○月 | 「○○亭」で地元食材を使った新メニュー開発コンテスト 優秀賞受賞 |
平成○年○月 | 都心の高級和食レストラン「○○旬菜」入社 調理兼ホールスタッフ(○年) |
平成○年○月 | 「○○旬菜」○○店 店長兼料理長に就任(○年) |
令和○年○月 | 地元○○県に戻り、地元食材に特化した飲食店開業準備開始 |
③:取扱商品・サービス
ご自身の飲食店で提供するメニューやサービス、特徴的な料理、顧客にどんな食体験を提供することができるかを記入します。また、競合分析の結果から導かれる自店舗の戦略なども、この箇所に記していきます。
【具体例】
項目 | ポイント |
---|---|
取扱商品・サービスの内容 | ①ランチ:地元○○県の新鮮な食材を活かした定食メニュー(売上シェア 30%)②ディナー:季節のおすすめ料理や特別コース(売上シェア 55%)③テイクアウト:忙しい方向けに手軽なお弁当や地元食材の販売(売上シェア 15%) |
セールスポイント | 地元の新鮮な食材を使用し、季節感あふれるメニュー構成・「マーケットスタイル」コーナーで顧客が直接食材を選べる体験提供・地元料理コンテスト受賞シェフによる創作料理 |
販売ターゲット・販売戦略 | 健康を意識する若年層から中高年層、地元食材に興味がある観光客・SNSを活用した地元食材の魅力紹介、料理教室や地元食材フェアの開催 |
競合・市場など企業を取り巻く状況 | ○○駅から徒歩5分の好アクセス、近隣には同様の和食店が数店舗・地元食材を活かした飲食店が人気上昇中、地域内での競争は激化傾向・週末は観光客が多く、平日はビジネス客が主流 |
④:取引先・取引関係等
この欄には、具体的な取引先の名称やシェアなどを記入していきます。
飲食店経営の成功は、信頼できる仕入れ先や取引先があることも密接に関連しています。素材の質から価格競争力はもちろんのこと、安定した飲食供給に至るまで、ご自身が営むお店の品質とコストに直接影響を与えるからです。
また、競合他社と比較して、独自性のある取引条件を明らかにすることにもつながります。たとえば、地元の農家と直接取引をしていた場合、特別な季節の野菜を安定供給することができるでしょう。
こういったメリットを、シェアや取引の割合欄から具体的な数字で明記することで、読み手は計画書からお店の特徴を把握することができます。
⑤:従業員
ここでは、飲食店運営における最重要資源である人材を、数字で明確に表記します。従業員は、まさにお店の心臓部とも言える大切な働き手です。とりわけ飲食店の場合、従業員がお客様と直に接するため、お店のイメージを大きく左右します。
こういった大切な働き手の人数を記すことで、どのくらいの規模で飲食店を開業するのか伝えることができます。もちろんこの中には、事業者であるご自身も含まれます。
⑥:お借入の状況
「お借入の状況」は、ご自身の財政状況を示すための重要な欄です。
ここでは、現在の借入金額とその使用目的を明示し、年間にどれくらい返済しているかを記載します。この情報は、融資担当者がご自身の返済能力を判断するための基本的な材料となります。
たとえば、事業拡大のための借入や、個人的なローン(住宅や車など)の情報も含めることで、融資担当者にご自身の全体的な財務状況を理解してもらうことができます。これにより、創業後の資金繰りが現実的かどうかを判断する上での重要な指標となります。
⑦:必要な資金と調達方法
必要な資金と調達方法では、事業開始に必要な総資金を計画し、その資金をどのように集めるかを具体的に示します。
必要な資金には設備投資、運転資金、初期仕入れ費用などが含まれます。そして、それらの資金をどのように調達するかを、自己資金、親族からの援助、金融機関からの融資などをリストアップします。
この箇所で大切なのは、必要な資金の細かい内訳を明確にし、それに対する調達計画を現実的に立てることです。計画の具体性と現実性が、融資担当者に事業への信頼感を与え、資金調達の可能性を高めます。
⑧:事業の見通し
事業の見通し(月平均)では、事業の収益性と持続可能性を示すために、詳細な財務予測を行います。ここでは、売上、原価、経費といったキーメトリックスを用いて、将来の収益を予測します。
たとえば、具体的なメニュー項目ごとの売上予測、原材料のコスト、人件費、家賃などの固定費用、そして期待される利益を示します。このプロセスには、業界のベンチマークや競合他社のデータ分析を取り入れることが重要です。
さらに、季節変動や特別イベントによる売上の変動など、外部要因が収益性に与える影響も考慮に入れます。これにより、融資担当者に対して、ご自身の事業計画が現実的であり、計画された収益が実現可能であることを納得させることができます。
以上が、創業計画書8項目の解説と、具体的な記入例でした。
ここまで説明した内容を意識することで、ご自身の飲食店開業における背景や熱意がより読み手に伝わることでしょう。
さて、記事をお読みいただく中で、あらためて事業戦略を考え直したいと思った方もいるのではないでしょうか。飲食店開業にかける気持ちを文章化することはとても難しいため、どんなポイントに気をつけて創業計画書に取り組めばいいのか、今一度振り返る必要があります。
そこでここからは、長きにわたり飲食業を続けるコツと、将来への見通しについて説明します。
飲食店の開業を成功に導くための戦略
飲食店開業における成功の鍵は、独自性と明確なターゲット市場の理解にあります。
創業計画書の項目にもなっている「取扱商品・サービス」に対しては、ご自身の店が提供するユニークな価値を明確にします。
たとえば、地元の新鮮な海産物を使った創作料理、伝統的な製法にこだわった手作りパスタ、またはグルテンフリーの健康的なオプションなど、店の個性を際立たせる要素を具体的に絞り出しましょう。さらに、メニューのサンプル、使用する主要な食材、料理のプレゼンテーション方法など、あらゆる点に対し独自性などを考えていきます。
続いて、「販売ターゲットや販売戦略」では、理想的な顧客像を描き、どのようにしてその顧客群を引き付け、維持するかなどを盛り込みます。
具体例を挙げるとすれば、オフィス街で働くビジネスパーソンを対象にした速くて健康的なランチオプション、若者を対象にしたインスタ映えする店内デザインと料理、高齢者向けの安心して楽しめる伝統的な家庭料理など、具体的なターゲット市場とアプローチ方法を捻出します。
また、地元のイベントへの参加、顧客からのフィードバックを生かしたメニューの改善、忠実な顧客への特別なオファーや割引など、顧客関係を築くための「強み」を深く掘り下げることも大切です。
つまり、飲食店を開業し、長期的な成功を目指すにあたっては、どういった層にどのようなサービスを提供していくのかがとても重要だといえます。この視点を考え抜いた先に、質の高いサービス戦略の考案が実現し、創業計画書の内容も充実することから、読み手である融資担当者に対して強いメッセージを伝えることができるでしょう。
創業計画書の飲食店向け記入例に関するまとめ
今回は、飲食店開業を成功に導くための具体的ステップとして、創業計画書の解説と記入例をお伝えしました。
創業計画書は、ご自身の飲食店が成功するためのロードマップです。計画書の各セクションに真摯に向き合い、具体的で説得力のある内容を記述することで、資金調達の可能性を高め、夢の飲食店経営を実現することができます。
ぜひ、本記事の内容を参考にしながら、長期的に成功できる飲食店をめざし、創業計画書を作成してみてください。