元ハローワーク職員の社会保険労務士が解説!退職を考えたら確認しておきたい失業保険の話
今とは違う仕事に挑戦してみたい、自分のキャリアを強化したい、自身が経営する立場になりたい。もしくは家族との時間、趣味や挑戦してみたいことに今以上の時間を確保したい。誰でも一度は考えたことがあるでしょう。
ただ、多くの方が実際には退職することなく今の仕事を続けている理由のうち、退職後のお金の心配が占める割合は決して小さくはないでしょう。生活費、ローンの返済、税金、社会保険料、将来に備えての貯蓄など、退職検討の際に限らずお金の不安は常につきまとうものです。
そんな、退職を検討する際のお金の不安を少しでも解消すべく、この記事では元々ハローワーク職員として失業保険窓口も担当していた社会保険労務士の目線から失業保険について分かりやすく解説していきます。
より詳しく知りたい方へのリンクも紹介していますので併せてご覧ください。
(目次)
失業保険とは?雇用保険とは違う?
退職後は失業保険をもれなく受給できる?
失業保険を受給するために必要な要件とは?
失業保険を受給できないケース
失業状態じゃなければ受給できない?
失業保険についての正しい理解が大切
失業保険の受給手続きは?
手続き先はハローワーク
いつから受給できる?
失業保険の受給手続きはいつまで?
失業保険の金額は?いつまで受給できる?
1日あたりの金額は?
受給できる日数は?
受給の途中就職すると損?全額受給してから就職するべき?
早期再就職するとお祝い金を受け取れる?
履歴書の空白期間は極力短く
まとめ
失業保険とは?雇用保険とは違う?
失業保険とは、雇用保険料を納めていた方が退職後にハローワークで受け取る給付のことを指します。ただし、厳密には失業保険という制度ではなく、雇用保険法に定められている失業等給付と言い、雇用保険法には次のような制度があります。
・退職後の給付:失業等給付
・育児休業期間の給付:育児休業給付
・介護休業期間の給付:介護休業給付
・60歳定年後の給付:高年齢雇用継続給付
・資格取得費用に関する給付:教育訓練給付
・その他助成金
この記事では上記のうち失業等給付について、馴染みの深い「失業保険」の呼び名で統一し、金額や受給に必要な手続きについて分かりやすく解説していきます。
退職後は失業保険をもれなく受給できる?
「退職したら当然失業保険は受給できますよね?」
ハローワークの窓口時代にこの相談を数えきれないほど受けました。
「職」を「失(う)」と書いて失業ですから、退職したら受給できるイメージが強いのもごもっともです。
しかしながら、答えは「要件を満たせば受給可能」です。
失業したら受給できる保険なのに要件があるの?
そう思われる方が多いと思います。
具体的にどのような要件があるのか見ていきましょう。
<h3>失業保険を受給するために必要な要件とは?</h3>
以下の要件をすべて満たす必要があります。
1.原則12カ月以上雇用保険に加入していたこと
2.再就職を希望しているが再就職先が決まっていないこと
3.すぐに就職できない事情(健康状態、育児・介護、学業専念、休養など)がないこと
リーフレット等では2,3をあわせて「失業状態である」と表現されますが、一般的な意味での失業と異なる部分がありますので解説します。
失業保険を受給できないケース
次の場合、失業状態ではないので失業保険の受給はできません。
・再就職先が決定してから退職している
・退職後、ハローワークで受給手続きを行うまでに再就職先が決定した
・当面の間自身の療養、育児、家族の介護に専念するために退職した
・各種学校への入学含め資格取得等学業に専念するために退職した
・起業、自営業、フリーランスとして働くために退職した
・しばらくは仕事をせずにゆっくりするために退職した
つまり、既に次の仕事が決まっている、もしくはそもそも再就職できないもしくはするつもりがない場合は失業状態ではない、といういうことです。
失業状態じゃなければ受給できない?
ただし、失業状態にないからといって失業保険を受給できる可能性が一切なくなるわけではありません。
例えば、内定はもらったが他にも選考中の会社がある、応募したい求人があるなど、内定先への就職が確定していない場合が挙げられます。
また、フリーランスを含め起業を検討している場合、再就職と並行して検討している段階であれば受給手続きが可能です。ただし、物件の仮押さえや事業に関する契約・申請・申込・届出等、一切着手していないことが絶対条件となります。
上記の場合、就職の意思があり、かつ再就職先が決定していないということで受給手続きを進めることが可能です。
他にも、育児や資格試験に向けた勉強等、例えば数カ月はすぐに働けないが、その後は就職活動を開始できる、という場合は就職活動が可能となるタイミングで受給手続きを進めることが可能です。
ただし、退職してから受給手続きまでの期間が一定以上空いてしまうと、退職直後に手続きした場合に比べもらえる額が結果的に減少してしまう可能性があります。この点、【失業保険の金額は?いつまで受給できる?】で詳しく解説します。
失業保険についての正しい理解が大切
ハローワークで受給手続きをする際には既に就職活動を始めている、もしくはすぐにでも就職活動が可能であるか、また採用が決定した場合にすぐに働くことが出来るかどうかについて必ず確認されます。受給の大前提となる要件を正しく理解し、ありのままを申告して下さい。
この点をうやむやにすると本来受給できたものが受給できないばかりか、不正な受給として最大3倍返しのペナルティが課せられてしまいます。
失業保険の受給手続きは?
失業保険の受給に必要な要件、理解していただきたい制度の趣旨等解説してきましたが、ここからは具体的な手続きなどについて解説を進めます。
手続き先はハローワーク
退職後、原則としてお住いの住所を管轄するハローワークに離職票その他必要書類を持参して手続きを行います。
現在同一都道府県内であれば、希望する業界・業種の企業が多く立地する地域を就職活動の拠点にする場合、その地域を管轄するハローワークで手続きを行うことも可能です。
ただし、ケースバイケースの判断になりますので、住まいの地域管轄とは異なるハローワークでの手続きを希望される場合、先に相談しておくことをおすすめします。
いつから受給できる?
手続きを行った当日から7日間は待期期間といい、退職理由を問わず給付が行われない期間があります。
その後、いわゆる自己都合退職の場合、原則3カ月間は給付制限期間といい、給付されない期間があります。
給付制限について、失業保険の手続きが初めての場合、もしくは前回の手続きから一定期間以上経過している場合は2カ月に短縮されます。
詳しくはこちらをご覧ください。
給付制限期間が2カ月に短縮されます|厚生労働省鳥取労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/content/contents/tori_kyufukikan_tansyuku021001.pdf
一方、会社倒産、解雇(重責・懲戒解雇を除く)、雇止め等自身の意思によらない退職の場合、給付制限期間はなく受給が始まります。
その後、ハローワークで指定される4週間ごとの認定日にハローワークへ来所し、就職活動実績が認められた場合、その期間について最大の受給日数のうち就職前日までの土日祝を含めた日数分の失業保険が後日ご自身が指定する口座へ入金されます。
失業保険の受給手続きはいつまで?
失業保険の受給手続期限のことを「受給期間」といい、原則退職の翌日から1年間です。
ただし、退職から1年経過するまでに手続きをすればいいわけではなく、先に解説したハローワークへ受給手続きのために来所するまでの日数、7日間の待機期間、自己都合退職の場合に原則3カ月間の給付制限期間、その後最大受給できる日数を全て含めての1年間です。
そのため、手続きが大幅に遅れた場合、受給できる日数の途中で受給期間の最終日が到来してしまうとそれ以降の日数分は受給できなくなってしまいます。そうならないよう、離職票を受け取ったら速やかにハローワークで受給手続きを行ってください。
なお、療養・妊娠・出産・介護・定年退職後の休養については一定期間受給期間を延長することができます。こちらも離職票を持参して説明を受け、必要な手続きを行ってください。
失業保険の金額は?いつまで受給できる?
失業保険は、1日あたりの金額×最大何日分、という仕組みで給付されます。
1日あたりの金額は?
1日あたりの金額を「基本手当日額」といい、以下の計算式で算出します。
退職直前満6カ月分の賃金÷180×給付率(80~50%)
ただし基本手当日額には次のとおり年齢階層別の上限がありますので留意してください。
(令和5年8月1日現在)
30歳未満 | 6,945円 |
30歳以上45歳未満 | 7,715円 |
45歳以上60歳未満 | 8,490円 |
60歳以上65歳未満 | 7,294円 |
引用元:基本手当について|ハローワークインターネットサービス
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html
受給日数は?
失業保険が給付される最大の日数のことを「所定給付日数」、雇用保険に加入していた期間を「被保険者であった期間」といい、以下の通り定められています。
<倒産、解雇、雇止め等>
被保険者であった期間 | ||||||
1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | ||
区分 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ― |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳以上45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | |||
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
<上記以外の自己都合退職等>
被保険者であった期間 | ||||||
1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | ||
区分 | 全年齢 | 90日(※) | 90日 | 120日 | 150日 |
引用元:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html
<h2>受給の途中就職すると損?全額受給してから就職するべき?</h2>
ここまで読んでいただいた方の中には、次のように考える方がいらっしゃることでしょう。
「受給の途中で就職すると残りは受け取れず損する?」
「全て受け取ってから就職する方がお得!」
この点、私の見解は「断じてNo!」です。
こう主張するにはもちろん根拠があります。
順に解説していきます。
早期再就職するとお祝い金を受け取れる?
「断じてNo!」と断言する根拠の一つ目として、雇用保険法に定められている再就職手当を紹介します。
再就職手当は、所定給付日数のうち1/3以上を残して就職した場合に、残っている日数に応じてその50%もしくは60%を受給できるというものです。
再就職手当の受給には残りの日数のほかに以下の要件があります。
・7日間の待期期間経過後の就職であること
・給付制限期間がある場合は、給付制限期間の初め1カ月間の就職はハローワークもしくは職業紹介事業者(いわゆるエージェント)の紹介による就職であること
・再就職先が退職した会社の子会社や、売上の半分以上がを退職した会社からの受注が占めるなど、密な関係にある会社でないこと
・ハローワークでの受給手続き前に内定していた会社でないこと
残りの全額ではありませんが、申請は就職後になるため、再就職先での給与に加えて形を変えた失業保険も受給できるということです。全体として獲得する所得という観点で見ると早期再就職の方がメリットが大きいのは一目瞭然ですよね。
この通り、早期再就職により残った日数分が形を変えたものですので厳密にはお祝い金ではありませんが、一般に浸透しているイメージに沿って解説しました。
もっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
再就職手当のご案内|ハローワークインターネットサービス
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/doc/saishuushokuteate.pdf
履歴書の空白期間は極力短く
根拠の二つ目は、職に就いていない期間は極力短い方がいいという点です。
令和の大惨事たる新型コロナウイルス感染症の拡大により、テレワークが浸透し、多用な働き方、キャリアアップやリスキリング(学び直し)への理解・注目が一気に加速しました。
こういった経緯から、再就職先の選定に時間をかける、退職を機に自身のスキルを磨く、ということを否定するつもりはありません。
とは言え、採用側としては履歴書の長い空白期間に対する懸念は依然根強く、マイナスイメージを拭いきるのは非常に困難なことです。十数年前には再就職先も決めずに退職するなど言語道断、職歴に空白がある時点で不採用というのが往々にしてあったのも事実です。
そのため、スキルアップを検討するためのコスト意識を強く持ってほしいという思いがあります。
資格取得の例であれば、受講料等の金銭コストは勿論のこと、職に就いていない期間が自身の採用の可能性に与える時間コストも十分吟味しなければなりません。
なんとなくの自分探しや資格取得等で自身のキャリアに傷を付けることのないよう、慎重な検討を願っております。
まとめ
ここまで退職後の失業保険について、元ハローワーク窓口の担当者、現在社会保険労務士の観点から解説しました。
この記事をお読みいただき、失業保険の受給にあたっては制度の趣旨の理解はもちろんのこと、総額のみに着目するのではなく、次のステージへ向けて最大限活用するという観点を一人でも多くの方にお持ちいただけたなら、筆者としてはうれしい限りです。
この記事を書いた人
元ハローワーク正職員の社会保険労務士。ハローワーク時代に社会保険労務士試験に合格し、その後社会保険労務士事務所、企業人事部勤務を経て独立。官・民・士業の三視点からのアドバイスを得意とする。独立後は顧問社会保険労務士業務のほかWebメディア記事を通じた情報発信などを行っている。