元ハローワーク職員の社会保険労務士が解説!退職を考えたら確認しておきたい健康保険や年金の話
退職の検討を始めるにあたって、再就職先をどうするか、どんな事業を起こすかはもちろん、その間のお金のことについても十分に理解しておく必要があります。
この記事ではそんな避けて通れないお金の話のうち、退職後の健康保険や年金について解説します。
社会保険というと、会社勤めの間は多くの場合総務担当者が手続きしてくれており、よく分からないまま書類の提出や記入をしたという方が多いのではないでしょうか。
そんな、健康保険・年金制度や退職時の手続きについてよく分からないという不安を解消できるよう、この記事では退職後の健康保険・年金制度や必要な手続きについて分かりやすく解説します。
(目次)
そもそも社会保険とは?
退職後に健康保険はどう変わる?
国民健康保険に加入する
健康保険の任意継続に加入する
家族の扶養に入る
退職後に年金はどう変わる?
国民年金に加入
配偶者の扶養に加入
まとめ
そもそも社会保険とは?
社会保険とは、一般的に会社勤めの方の健康保険と厚生年金保険をひとまとめにした呼び方です。
具体的には病院で提示する保険証に関係するものが健康保険、将来受け取る年金に関係するものが厚生年金保険です。
前提として、会社勤めの間は健康保険・厚生年金に加入すると決まっており、自分で加入する制度を選べるようにはなっていません。
ところが、これが退職後の話となると複数の選択肢があります。加えて健康保険・年金それぞれ手続きが必要です。そのため、ここからは健康保険・年金に分けて解説を進めていきます。
なお、退職後の失業保険の受給についてはこちらの記事(リンク)で詳しく解説していますので是非併せてご覧ください。
退職後に健康保険はどう変わる?
まずは健康保険について。
退職後の健康保険には大きく次の3つの選択肢があります。
・国民健康保険に加入する
・健康保険の任意継続に加入する
・家族の扶養に入る
それでは順に解説していきます。
国民健康保険に加入する
はじめに解説するのは国民健康保険(国保)への加入です。
会社勤めの方は健康保険(公務員共済・私学共済を含む)に加入、それ以外の方は原則国民健康保険に加入します。
国民健康保険料は?
国民健康保険料は前年の所得に基づき、4月から翌年3月までを年度として決定されます。そのため、退職の翌日から見て前年にあたる年の源泉徴収票・確定申告書の控えを自治体の窓口へ持参すればご自身の国民健康保険料がいくらになるか試算してもらえます。
国民健康保険加入の手続きは?
国民健康保険への切り替えはお住まいの地域の市区町村役場が窓口になっています。退職の翌日以降速やかに社会保険喪失証明書を持参して切り替え手続きを行ってください。社会保険喪失証明書がなくても手続きは可能ですが、手続きに時間がかかることがあります。
社会保険喪失証明書とは?
社会保険からの切替手続きに必要な書類です。発行を申し出なくても発行してくれる会社もありますが、漏れのないよう退職を申し出る際には離職票と併せて発行を依頼しておきましょう。この証明書はこの後で解説する任意継続・扶養加入の場合も同様に必要です。
扶養制度がない点に注意
また、国民健康保険に加入する場合に留意すべき点は、国民健康保険には扶養という仕組みがありません。そのため、会社勤めの時には保険料がかからなかった扶養親族ひとりひとりに保険料がかかるということです。この点、次に紹介する健康保険の任意継続制度の場合は会社勤めのときと同様に扶養の仕組みがありますので、扶養する家族がいる場合は任意継続制度の利用と併せて検討が必要です。
退職に伴う所得減少による減免
さらに知っておくべき点として国民保険料には退職により所得が一定以上低下した場合に保険料負担が軽減される場合があります。
申請には離職票の写し等のほか所得の確認資料が必要です。
離職理由による減免
また、倒産や解雇のほか一定の要件に該当する契約満了や自身の傷病、親族の介護等、非自発的な理由で退職した方には離職理由による減免制度があります。申請にはハローワークで失業保険受給手続き後に発行される受給資格者証や受給資格通知の内容をもとに、ご自身の世帯の国民健康保険加入状況をふまえて各自治体窓口で減免の可否を判断します。そのため、これらを受け取る前であれば退職理由が非自発的なものであることを事前に申し出ておき、受け取り後の手続きについて確認しておきましょう。
退職後のハローワークでの手続きについてはこちら(リンク)で詳しく解説しています。
健康保険の任意継続に加入する
次に解説するのは健康保険の任意継続制度の利用です。
この制度は、退職まで継続して2カ月以上健康保険に加入していた方が退職時に負担していた健康保険料を事業主負担も併せて全額負担することで、最長2年間健康保険の加入を継続出来るというものです。
任意継続保険料は?
社会保険では給与総額をキリの良い額に区分し、その区分毎に保険料が設定されています。
この区分を標準報酬月額といいます。
任意継続においては以下いずれか少ない標準報酬月額に対応する保険料を全額自己負担することとなります。
①退職時の標準報酬月額
②標準報酬月額30万円(上限)
つまり、標準報酬月額が30万円を超える場合には上限が適用されますので、国民健康保険との比較検討において留意する必要があります。
任意継続のメリット
これまでの倍額の健康保険料を負担してまでそれまでの健康保険の継続を検討すべき理由は、扶養親族についての保険料が発生しないという点です。
そのため、配偶者やお子さん、親御さんなど扶養家族が多い場合、国民健康保険に比べ家族全体の保険料負担が軽くなる可能性が高いので、両制度を比較検討するのがオススメです。
健康保険との違い、注意点
一方、退職までの健康保険と異なる点として、出産や業務外の怪我や病気により働けない期間について申請可能な出産手当金・傷病手当金の制度は任意継続制度にはありませんのでご注意下さい。
任意継続のための手続きは?
任意継続への切り替えは、退職の翌日から20日以内に所定の申出書に社会保険喪失証明書等を添えてお手元の健康保険証に記載されている健康保険協会(協会けんぽ)支部に持参、もしくは郵送にて手続きが必要です。
上記期日を過ぎてしまうと任意継続制度に加入できなくなってしまいますので申出書等は事前に用意しておき、退職後速やかに手続きを行ってください。
申出書は協会けんぽのホームページからダウンロードできます。
任意継続被保険者資格取得申出書|全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat240/r55
勤務先が共済の場合は?(公務員・学校法人)
なお、勤め先の健康保険が協会けんぽではなく健康保険組合の場合や公務員等の共済組合(国家公務員・地方公務員・私立学校教員)の場合の様式等について別途担当者へご確認ください。
家族の扶養に入る
最後に解説するのは、会社勤めの家族の扶養に入るという方法です。
実際に起業し軌道に乗り十分な収入を得られるまでの間、貯金を切り崩しつつ配偶者や両親から金銭的な支援を得て生計を立てるというのはよくあるケースです。
この場合、配偶者や同居の両親が勤め先で社会保険に加入していればその扶養家族として健康保険に入れる可能性があります。保険料を負担することなく健康保険に加入できるため、是非検討いただきたい選択肢です。
扶養に入るための手続きは
扶養に加入する為に必要な書式や添付書類等の案内は会社に用意されているので、まずはご家族から勤め先の担当者に確認してもらうのがいいでしょう。
なお、失業保険の受給中は扶養から外れるケースが大半ですので、扶養に入ったり外れたり、と手続きが複数回必要な場合もあることにご留意ください。
失業保険の手続きについてはこちら(リンク)で詳しく解説しています。
退職後に年金はどう変わる?
続いて年金について解説します。
先にお伝えした通り健康保険には3つ選択肢がありますが、年金は以下の2つです。
1.国民年金に加入する
2.配偶者の扶養に入る
こちらも順に解説していきます。
1.国民年金に加入する
まずは国民年金の加入について。
こちらも家族の扶養に入るという選択肢がありますが、配偶者の扶養に入る場合に限られます。そのため勤め先で社会保険に加入している配偶者のいない方はもれなく国民年金に加入することになります。
国民年金への切り替えは国民健康保険と同様にお住まいの地域の市区町村役場が窓口になっていますので、退職の翌日以降速やかに社会保険喪失証明書を持参して切り替え手続きを行ってください。
毎月の国民年金保険料は令和6年3月分までは16,520円、令和6年4月分からは16,980円です。
また、ご自身の年齢や世帯の所得に応じて保険料の納付が一部もしくは全額免除される、もしくは一定期間納付が猶予される場合があります。ご自身の世帯が該当する可能性があるか確認したい方は市区町村の年金窓口へお問い合わせください。
2.配偶者の扶養に入る
次に配偶者の扶養加入について。
国民健康保険同様、保険料は発生しません。
ただし、年金制度の扶養は配偶者の扶養に限られています。そのため、親御さんの健康保険の扶養に入る場合には別途国民年金への加入、保険料の納付が必要ですのでご留意ください。
まとめ
これまで解説した内容をまとめると以下の表の通りです。
<健康保険>
保険料 | 扶養制度 | メリット | デメリット | |
国民健康保険 | 前年の所得による | 〇 | 退職に伴う所得減少、離職理由による減免制度がある | これまでの扶養親族にも保険料が発生 |
健康保険の任意継続制度 | 退職時の標準報酬月額(上限30万円)に都道府県別の保険料率を乗じた額 | × | ・扶養親族は保険料がない・国民健康保険より保険料負担が小さくなる可能性がある | - |
家族の扶養加入 | 保険料負担なし | - | 自身の保険料負担がない | 失業保険の受給状況により手続が複数回必要 |
<年金>
保険料 | 扶養制度 | メリット | デメリット | |
国民年金 | 令和6年3月分まで 16,520円令和6年4月分以降 16,980円 | × | 世帯収入等による保険料減免・納付猶予制度がある | 会社勤めのときより保険料負担が大きくなる場合がある |
配偶者の扶養加入 | 保険料負担なし | - | 自身の保険料負担がない | 失業保険の受給状況により手続が複数回必要 |
まずはご自身に扶養加入の選択肢があるか検討いただき、惜しくも選択の余地がない、もしくはご自身が家族を扶養する側である場合、国民健康保険・任意継続制度・国民年金を検討いただくのが良いでしょう。
今回は社会保険にスポットを当てて解説してきましたが、失業保険についてもこちらの記事(リンク)で詳しく解説していますので是非ご覧ください。
ここまで退職後の健康保険・年金について解説してきましたが、いかがでしょうか。
人は意識せずとも経験したことがないこと、情報が不足していることについては必要以上にモヤモヤと不安を感じてしまうものです。この記事がそのモヤモヤを少しでも晴らし、次のステップへのアクセルをもう一段踏み込んでいただく一助となればうれしい限りです。
この記事を書いた人
元ハローワーク正職員の社会保険労務士。ハローワーク時代に社会保険労務士試験に合格し、その後社会保険労務士事務所、企業人事部勤務を経て独立。官・民・士業の三視点からのアドバイスを得意とする。独立後は顧問社会保険労務士業務のほかWebメディア記事を通じた情報発信などを行っている。